岡山デニムの品質
岡山のデニムは、世界に注目されている。日々、世界中のファッションメーカーが岡山と打ち合わせしている。
長年デニムに触れ確信して言えるのは岡山デニムは艶感や密度、肌触りが段違いという点。
岡山のデニム製造工場と連携している生地会社は、ハイレベルなデニムに巡り会える確率が非常に高い。
産地でいうと岡山以外にも作られている地域はあるが、岡山デニムは確実にトップと言える。
岡山の生地屋をめぐるわくわく感
岡山デニムの生地屋はめぐるときのわくわく感が圧倒的に違う。
残念ながら岡山デニムを取り扱う生地屋は基本的に一般のかたと接点はなく、BtoB(企業が企業に商売する)の業態。
「生地屋をめぐる」このわくわく感を、わかりやすくお買い物で説明すると、海外のデニムは「ワゴンがならぶ量販店をめぐり、なんとか自分に合いそうな服を探す」ようなイメージ。
岡山デニムは「煌びやかな百貨店の中、お気に入りのセレクトショップでわくわくドキドキしながら服をチョイス」するかのような感覚に近い。
岡山の生地屋を巡ると”薄手のトラウザーを作る”など、かなり的確に狙った企画で生地を探していたはずなのに、いい生地にめぐり合うと「これでジャケット作ったら最高にカッコイイぞ…」と完全に別の企画が立ち上がりヒット商品に繋がったりする。
同じ岡山デニムでも会社で違う
岡山デニムの会社と言っても、様々で設備やノウハウでヒットしたデニムも会社ごとで違う。
得意、不得意もあり会社ごとの定番生地、ヒット生地、スペシャルな生地がある。
岡山県倉敷市児島にあるジャパンブルー社の生地はヴィンテージ、ミリタリーやトレンドを上手く融合しているイメージがあり、
デニムのヴィンテージの表情を再現した織りなど網羅している。
▲ジャパンブルーのセルビッチデニム製造風景
同じく倉敷市児島にあるSHOWAでは若干特色が違い、ジャパンブルー社と同じようにセルビッチデニムを織ったりもできるが、
ウール混デニムやシルクデニムなどもハイクラスのコレクションやモードの変化したデニムが可能で、
専用の設備で湿度管理を徹底するなど技術的に高い生地に長年チャレンジしている。
インディゴで染めることがかなり難しいナイロンを染めたナイロンデニムが強靭な生地でみなさん思いつくであろう一流のアウトドアブランドで取り入れられている。
引用/株式会社SHOWA
気を付けなければならないのが、デニムの多くが洗い加工を施す。
一見遜色ないように見えるが、
加工を施すと使いものにならない表情を出すこともある。
特に岡山のデニム加工な何重のも時には30~40もの行程を重複させるので生地の状態の安定と再現性は必要不可欠。
日本のデニムのインディゴ色が出せないため海外では別の染めを追加してなんとか色を作っていることもある。
ブリーチ加工で妙な落ち方をするので、海外の生地にこれで泣かされたこともたくさんあり、
このような生地では着用して退色していくと純粋なインディゴサックスにはならない。
信じられないことにブリーチして緑色のジーンズになったこともある。
加工や経年変化も見極め生地を選定するとき、岡山デニムは経年変化も設計されていることが多く安心感がある。
デニムの定義
そもそものデニムというものの定義を解説すると、縦糸がインディゴ、横糸が白い糸で織られた生地を指してる。
(ジーンズはパンツになっているものを指す言葉)
最近はインディゴではない染色法のカラーデニムなども出てきており、
多種多様なファッションに合わせて様々なデニムが出ているが、
大元を辿るとインディゴで染められているものを指す。
インディゴの糸は特徴的で、真ん中の芯が白いままで表面がインディゴで染まっている。
インディゴが褪色(色褪せ)や剥離(摩擦・洗濯)しやすい染料なことで
他の生地に比べデニムの方が圧倒的に豊かな表情なのが特徴。
縦が3横が1の割り合いで織られて横糸の白がチラチラと露出しているのも一層、立体的に見える。
デニムをサンドペーパーでこするシェービング加工をすると陰影が出てくるのも糸の中の色が白いからだ。
ジーンズを作るなら岡山に立て
岡山デニムは、ジーンズストリートの認知などでここまで浸透する前もアパレル業界であれば知らない人はいないぐらい有名だった。
いわゆるBtoB(企業が企業に商売する)向けでBtoC(消費者に直接お店などでかかわる)には特化していない地域性だった。
東京でデニムを特化して扱うブランドデザイナーになったなら東京で勉強するより、岡山に降り立ちジーンズ一本仕上げなさいと言われる。
岡山に降り立ち、巡ることで高品質なジーンズが岡山で完結し仕上がる。
ジーンズにおいてはこのような地域は世界的に見ても稀有である。
しかも会社間の物質的な距離が近い。
デニム生地だけでも世界トップの技術だが、生地だけでなく縫製、加工、特殊、仕上げ。
縫製会社はドレスチックな縫いに強いところもあればカジュアルに強いところ、自動縫製で数をあげることに特化したところ、逆に工房に違い業態と、様々なところがある。
それらの会社が密接に連携しあうのがこの地域の特徴だ。
加工も会社ごとに違い、表情や可能な加工が違う。
ほとんどのデニムは加工を経て市場に出るのでとても重要なワークフローである。
職人の手業に特化した会社があるのが世界的にみても稀であり、40以上の重複加工の再現は丁寧に仕事をこなす日本人ならではの技術。
海外では劣化版はできても同じ事はできない。
極限まで突き詰めた加工に魅了されたブランドがデニム技術を武器に成長し
現在は誰もが知るようなブランドになっていることも、この業界にしては往々にしてあった。
特殊とはボタンやリベット、カン止めなどのこと。ボタンひとつ、カンドメひとつにしても、その会社でしかできないような特殊で優れた技術を有していることもある。
守秘義務があるため、なかなか表には出ないが思いつくラグジュアリーブランド、世界的にも有名なハイブランドの商品が岡山の工場には転がっていたりする。
世界的に有名なハイブランドの商品を引退間近のおばあちゃんが加工や特殊をしているのを見て煌びやかな販売イメージと非常にギャップを感じる。
8等身のモデルがパリコレでバチバチにキメてモデルウォークした服をちょっと前におばちゃんが必死に仕上げしている。
専門学校を卒業したての若い縫製会社の社員が有名ブランドの納期に追われ、
特殊の内職のおばあちゃんに納品し「あんた頑張っとるから夜やっといたで」と、定時がある会社には真似できない時間で仕上げ、
次の日の朝すぐに回収でき、なんとか納期に間に合うといったようなようなヒューマンドラマが日々行われている。
▲これからリベットボタンを打つ縫製アップ時のジーンズ
岡山デニムとその他のデニムはなぜ違うか?
どれだけデニムに愛された地域であるか、わかっていただけたと思うが
本題の回収、岡山デニムとその他デニムの違い。
陳腐な言い方で恐縮なのだが「技術と想いの集積」であると言える。
売り買いしている岡山の生地屋さんに聞いてみた。
生地屋さんは岡山デニムも海外デニムも扱っているのでどちらも性能、特徴は知っている。
「岡山デニムと海外デニムの違いってなんですか?」
生地屋さん何人かに聞いたが、最初の開口はみなさん口を揃えて言う。
「できることは一緒ですよ。」
むしろ、海外のほうが最新技術を導入し、速度や再現性、ロスなどの観点から言うと先に進んでいるらしい。
ではなぜ岡山デニムは優れていると言えるのか。
水、染料、染める行程や前処理、もちろん地場の環境の違いもあるが
『テストというものがない一発勝負の生地作成のなかで、お客さんと一緒にとことんまで追求したものを作る』ということ。
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クライアント「こんなデニム作りたいんです。」
生地屋「これ、やってみないとわからないです。」
※リスクあることは、海外などではストップの可能性が高い。実際、許容を超えてクライアントに対応してくれる会社が海外は少なかった。
クライアント「どうしてもこのカッコイイデニムが作りたいんです。」
生地屋「最低ロットで作ってみますか?それでもこの上がりになるかはわかりませんが、、、」
※工場にもよるが、最低の生地ロットは5000メートル。ジーンズで約350本分。
クライアント「やってみましょう。」
生地屋「最初のロットは購入してもらって、次回のロットでは上がりに近いように修正していきます。初回のロットもなるべく頑張って寄せてみますね。」
後日打ち合わせにて、
例:生地屋「A糸とB糸の組み合わせがいいと思ったんですが、C糸を少し使うのが良いと思うんですが使ってみますか?」
例:生地屋「現場と打ち合わせして、現場の感覚だとA糸とB糸の組み合わせだと不具合がある可能性があるからC糸の割り合いを上げるか、D糸とB糸を入れ替えもいいかもしれないです。やってみないとわからないところですが」
制作後、クライアントから半年、1年でフィードバックがあり改善する。これを繰り返す。
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上記のようなことが"何千、何万回"と岡山で行われて、技術が集積しているのが1番の理由と思われる。
ブランドなどのクライアントがリスクを承知で表現に妥協せずに生地を作る。
生地屋が持っている技術を使って現場で微調整しながら理想の表情に合わせる。
立場が違う人たちの感覚のギアの噛み合わせが非常に重要。
リスクを犯して進めたものは、クライアント、生地屋、工場のノウハウになる。
岡山内でも淘汰はある。開発力や表現力、繋がりなどでクライアントの要望に応えれない会社はちからが弱まり倒産する。
ドラマのように会社のシャッターに貼り紙がされ、駐車場で頭を抱えてうずくまる社員という構図を実際に何度も見た。イケてる生地の情報は至るところに錯綜している。購入、テストも敷居が低いのでクライアントの移り変わりも激しい。
1メートル売っていくらの世界で非常にシビア。
緊張感ある地域がさらに技術を濃厚な密度にさせる。
中国でのデニム生地探しの旅
中国の広州という地域に生地の街というのがあった。生地売りのお店を100件以上は見た。
全部見てみようと決めて、そのとき足が届くところは全てまわった。
▲牛仔はデニムのこと
自分の主観だが4000種類ほど見て、ギリ使えそうなデニム生地が数点ほどだった。
BOBSONオンラインでも数点中国製のデニムがあるが、本当に苦労して探してチョイスした。
見てまわった2015年当時、ダブルネームなどで上代を低く設定するなら努力する意味はあると思うがあまりにも使えない、安っぽい生地が圧倒的に多かった。
余談だが、戻りの高速で生地が燃えていた。
個人的な感覚は50〜60点な感じ。
しかし、ヴィンテージを感じるものというよりは量産型の平たい表情がすべてだった。
アムステルダムの展示会で
以前の海外のアパレルの
世界中のバイヤーが集結する世界的な展示会。
岡山の企業の数社と共に参加していた。
海外生地のデニムブースと岡山デニムブースを比較すると艶感、密度、肌触り、誇張することなく全てをはるかに上回っていると感じた。
「信じられない」と
クオリティをほめるバイヤーがほとんど。
弱点とするなら発展途上の国に比べ、
値段がかなり高いこと。
日本のPRの下手さも目立って感じた。大人しい日本のブースに対して、派手に装飾し大きく身振り手振りを使って海外のブースは目を引くようにPRする。
まとめ
岡山デニムの品質は、一線を画す。
結局のところの違いは
「ものづくりに対する情熱」
と、その
「情熱によってできた技術の集大成」
と言えるのではないか。
この狭い地域で技術者ひとりひとりが
相手のことを想いものづくりするからこそ、
非常に高いクオリティが完成し続け
地域の枠内で成長し続ける。
海外のデニムは量産を重視し、コストパフォーマンスや手軽さが魅力だが、
岡山デニムは職人の手による
丁寧な作業と独自の加工技術が生み出す
一品一品が芸術品のようなものだと思う。
岡山デニムはその品質、技術力、
そして職人のこだわりが生み出す経年変化が
他にはない魅力を持ち
デニムの最高峰として認識され
艶やかで高密度、肌触りの良さに加え、
加工や経年変化まで計算された作りは、
世界中のファッション業界から高い評価を得ている。